2021.5.24 家族信託

認知症になったら相続対策はできる?成年後見制度と家族信託での相続対策方法を解説

高齢化に伴い、認知症を患う人も増えています。認知症になってしまった場合、相続対策はできるのでしょうか?認知症になった際によく活用される成年後見制度について、認知症になる前に契約を結びたい家族信託についても紹介します。

 認知症になった場合の相続対策

認知症_相続対策

被相続人(死亡する人)となる人が認知症になった場合、どのような相続対策ができるのでしょうか。

認知症になったら相続対策は難しい

認知症が発症した後に相続対策をすると、本人に判断能力がないことをいいことに、特定の相続人(相続を受ける人)に有利になるような相続内容になってしまいトラブルが発生するという恐れがあります。

そのため、基本的には認知症になってしまってから相続対策をすることはできません。基本的には認知症になる前に相続対策は終わらせておく必要があります。

基本的には成年後見制度を使う

認知症になってしまい、被相続人となる人に認知能力がない場合には「成年後見制度」を利用することになります。

厚生労働省により行われた令和2年の調査によると、令和元年末の時点での成年後見制度の利用者は224,442名でした。平成26年12月末の時点では184,670名だったので利用者が増えていることがわかります。こちらの調査によると、成年後見制度の申し立てをする一番の理由は「預貯金の管理・解約」が40.6%です。

参考:(了)成年後見制度の現状(信託・支援預金入)0612 (mhlw.go.jp)

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成年後見制度とは?

それでは、成年後見制度がどんな制度なのかについて紹介します。

法定後見人・任意後見人の違い

成年後見制度とは、認知症などを発症し認知能力が著しく低下している人をサポートする人を選任する制度です。成年後見人は、本人の認知能力により法定後見人・任意後見人のどちらを選ぶかが決まります。

法定後見人は、すでに認知症などによって認知能力が低下している場合に、法律のルールによって後見人を指定する制度です。法定後見人の選定は家庭裁判所により行われるので、必ずしも親族が選ばれるわけではありません。家庭裁判所に申し立てを行った後、手続きには3~4カ月ほどかかります。

一方、任意後見人は、将来認知症になる恐れがある人物が、認知能力があるうちに自分で後見人を設定する制度です。法定後見人のように家庭裁判所での選定は必要ありません。

このように、認知症をすでに発症している場合には、法定後見人を選ぶしか道はありません。

後見人・保佐人・補助人の違い

法定後見人では、サポートが必要な人の認知度に応じて後見人・保佐人・補助人が決まります。重度の認知症を患っている場合には後見人が選定されます。重度の認知症と判断されるのは、判断能力が欠けているのが通常の状態になっている場合です。

後見人に選ばれた人は、認知症を患っている本人に代わって財産の管理を任されます。後見人には「代理権」と「取消権」が付与されます。サポートする人が騙されて勝手に契約してしまった場合には契約の取り消しができるのです。

保佐人は、判断能力が著しく不十分な方に設定されます。日常生活は自分で判断できるものの、訴訟や契約など慎重な判断が必要な場合は保佐人が交渉に参加して判断します。保佐人には「取消権」「同意権」があり、家庭裁判所が認めた場合には「代理権」を行使することもできます。

補助人は、保佐人を付けるほどではないけれど判断能力が不十分な場合に選定されます。補助人にも「同意権」「取消権」が与えられます。家庭裁判所が決めた場面でのみ「代理権」が行使できますが、補助人に比べると行使する頻度は低いです。

成年後見制度の問題点

成年後見制度には問題点がいくつかあります。どのような問題点があるかを紹介します。

財産の管理において柔軟性に欠ける

成年後見人になると、財産の管理をすることになっていますが、自由に財産の管理ができるわけではありません。例えば、自宅の売却は家庭裁判所の決定が必要です。また、収益物件を持っている場合に、新しい建物に建て替えてさらに収益を増やすといった運用はできません。財産の管理は、基本的には現状維持を求められます。

親族が後見人になれないケースも

厚生労働省のデータによると、成年後見人として選定されたのが親族という割合は21.8%に留まります。78.2%は親族以外から選ばれていることがわかりました。親族以外では、弁護士・司法書士・社会福祉士などが選ばれています

親族が後見人になれないと、財産の管理をする際に家族にとって有利な判断ができなくなることがデメリットです。また、専門家に対しての費用は月額数万円かかります。サポートする人が長生きすれば、負担が大きくなるでしょう。

参考:(了)成年後見制度の現状(信託・支援預金入)0612 (mhlw.go.jp)

横領などの不正が散見されている

親族が後見人になることで、横領などの不正が散見されています。例えば、後見人となった子が勝手に親の資産を使えば他の相続人になる兄弟は良い気はしません。その結果、相続発生時に遺産相続をめぐりトラブルに発展することも考えられます。

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認知症の相続対策には家族信託契約がおすすめ

上述のように、認知症になった場合に財産の管理などが必要になれば、成年後見制度を利用するしかありません。しかし、成年後見制度は親族が後見人になれない、柔軟性に欠けるというデメリットもあります。そのため、より柔軟に財産の管理をしたいのであれば家族信託の利用をおすすめします。

家族信託とは

家族信託とは、認知症などで判断能力が落ちる可能性がある財産を託す委託者の代わりに、受託者が財産を運用・処分・管理することです。また、財産を運用することにより得られる利益を受ける受益者=委託者に設定することが多いです。

【関連記事】家族信託とは?仕組みやメリットデメリット・手続きの流れもわかりやすく解説

家族信託でできること

家族信託では、だれに財産を管理してもらうかを委託者の意思で決めることができます。成年後見制度では家庭裁判所により選定されるので、その点が大きな違いといえるでしょう。

委託者は自分が信頼できる人に自分の財産の運用・処分・管理を任すことができます。また、成年後見制度に比べると財産の管理も柔軟にできます。

もし、収益物件を改築してさらに財産を増やしたいという場合には、受託者の判断により改築することができるのです。基本的に現状維持しかできない成年後見制度に比べると自由度の高さが魅力といえます。

軽度認知障害の場合は契約できる可能性も

家族信託は、軽度認知障害の場合は契約できる可能性もあります。少し物忘れがある程度で、契約内容を理解できていると専門家が判断すれば契約が結べます

しかし、認知症は急に進行が進む病気です。そのため、財産の委託者の物忘れが気になる、行動が怪しいと感じた場合にはなるべく早めに契約することをお勧めします。

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家族信託を利用する4つのメリット

ここでは、家族信託を利用するメリットについて紹介します。

信頼する家族に財産の管理を委ねられる

家族信託を利用するメリットは、信頼する家族に財産の管理を委ねられるところです。成年後見制度では、78.2%は親族以外から後見人が選ばれているため、財産の所有者が望むような運用ができないケースもあるでしょう。その点、家族信託なら自分が選んだ人に任せられるのはメリットです。

例えば、家族の中で銀行員などお金の知識に詳しい人がいるとして、その人を受託者にすればさらに自分の財産を増すことができるかもしれません。そうすれば、相続として残せる財産を増やし、相続する親族に喜んでもらうこともできるでしょう。

受託者の考えで不動産の建て直しなどができる

成年後見制度は、財産の管理といっても現状維持が基本です。不動産の建て直しなどは基本的にはできません。「現状の収益物件をさらに収益が増やせるものに増築・改築したい」といった、攻めの運用をしたい場合には家族信託が向いています。

委託者の思い通りに運用できる

家族信託は、委託者の思い通りに運用することも可能です。相続を自分の思い通りにするために、遺言書の活用をすることができますが、遺言書の場合は自分の相続時にしか思い通りの相続はできません。一方、家族信託の場合は、次の後継者(2番目)だけでなく、次の次の後継者(3番目)以降の相続方法も決めることができます

不動産の共有管理を回避できる

家族信託を利用すると、契約した時点で不動産の所有権を受託者に渡すことができます。そのため、相続発生時に不動産の共同管理を避ける効果があるのです。

不動産の相続は揉める原因になりやすく、1つの不動産をめぐり遺産分割協議で揉めた場合には相続人全員で共同管理になることがあります。共同管理になれば、不動産を売却する際には他の相続人の同意を得る必要があります。また、次の相続が発生するとさらに所有者がややこしくなってしまうので避けたいものです。

【関連記事】【司法書士監修】すでに認知症でも家族信託は利用できる?利用できるケースと出来ない場合の代替案を解説

家族信託を利用するデメリットは?

家族信託の利用はメリットだけではありません。どのようなデメリットがあるかについても紹介します。

実務に精通した専門家がまだ少ない

家族信託は、まだ新しい制度です。契約の締結をする専門家は弁護士や司法書士になりますが、まだ実務経験が豊富という専門家が少ないのが現実です。また、契約の締結はしたことがあっても、委託者が死亡するところまで経験しておらず、契約に際してのリスクなど充分理解できているとは言えない専門家がほとんどでしょう。

信頼して依頼できる専門家に出会うことがまだ難しい、見極めが難しいというのが家族信託を利用する際のデメリットです。

費用がかかる

家族信託を契約することで費用がかかる点もデメリットです。家族信託を利用する場合、専門家へのコンサルティング費用・公正証書作成費用・不動産の登記費用などがかかります。

家族信託は、まだあまり相談できる専門家がいないということで専門家へのコンサルティング費用は高めの設定となっており、信託財産の1%程度に設定されているケースが多いようです。例えば、1億円の不動産を信託財産とする場合は約100万円がコンサルティング費用となります。

また、信託契約書を公正証書化するためには、公証人役場に手数料を支払わなければいけません。契約書の金額によって手数料は異なりますが、金額が大きいほど手数料は大きくなります。

家族信託の手数料
100万円以下 5,000円
100万円超~200万円以下 7,000円
200万円超~500万円以下 11,000円
500万円超~1,000万円以下 17,000円
1,000万円超~3,000万円以下 23,000円
3,000万円超~5,000万円以下 29,000円
5,000万円超~1億円以下 43,000円
1億円超~3億円以下 43,000円(+超過額5,000万円までごとに13,000円)
3億円超~10億円以下 95,000円(+超過額5,000万円までごとに11,000円)
10億円超 249,000円(+超過額5,000万円までごとに8,000円)

参考: 10 手数料 | 日本公証人連合会 (koshonin.gr.jp)

さらに、不動産を委託する場合には、不動産の移転登記で司法書士への依頼費用が5万円~10万円程度、不動産の登録免許税などもかかります。

委託者本人や親族から理解を得られない可能性がある

家族信託はまだ新しい制度のため、委託者となる人自身が制度を理解できず利用を拒まれるケースもあるでしょう。特に元気で判断能力がある時期には、自分の財産をたとえ家族であっても託したくないと感じるかもしれません。

しかし、人間いつかは老いるものです。家族信託の必要性を感じているのであれば、家族会議を行うなどして必要性を理解してもらい、早めに契約を結んだほうが良いでしょう。

【関連記事】家族信託手続きの流れとやり方をわかりやすく解説|必要書類やかかる費用・注意点まで

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まとめ

認知症を患った後に相続対策をすることはできません。認知症になってしまった場合には、法定後見人を付けることで財産の管理・処分をしてもらうことができますが、親族以外が後見人となることが多く、家庭裁判所の許可が必要になるなど柔軟な運用は難しいです。

そのため、必ず認知症になる前に相続対策はしておくべきといえます

認知症になった後に、財産の運用・処分・管理をしてもらいたいと考えるのであれば、家族信託がおすすめです。自分が信頼できる人を受託者に設定できますし、法定後見人より柔軟に運用することができます。

家族信託は、軽度認知障害の場合は契約を結べることもありますが、認知症は進行する病気です。財産の委託者となる人が健康で判断能力があるうちに、早めに契約を結ぶようにしましょう。

Information

司法書士法人ワイズパートナー

司法書士 
笠田 佑介(東京司法書士会所属)

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