2022.9.13 家族信託

認知症になる前に絶対に決めておきたい4つのこと|任意後見と家族信託とは

人生100年時代となり平均寿命が延びていますが、それと同時に認知症の患者数は増加の一途をたどっています。

「まだ健康だから」と認知症対策や相続対策をしておかないのは危険です。対策をしないまま認知症になってしまうと、預貯金を引き出せなかったり動産を処分できなかったりと、子どもや親族が対応に困ってしまう可能性が高いでしょう。

この記事では、「老後に子どもを困らせたくない」「親が認知症になる前に何とかしたい」方に向け、認知症対策や事前に決めておきたいこと、相談先について詳しく紹介します。

認知症になる前に絶対に決めておきたい4つのこと

認知症になってしまうと自分のことでも決めることができず、希望した老後や最期を迎えるのが難しくなります。

最期まで自分らしくいたい人が、認知症になる前に決めておくべきことを紹介します。

財産の処分方法

財産を所有する人が認知症になったからといって、相続は発生しません。そのため、家族が財産を処分できず持て余してしまう恐れがあります。

特に不動産がある場合、売りに出すこともリフォームすることもできず、維持費が嵩むため、家族の悩みの種になることも珍しくありません。

財産の処分では、誰に・どの程度譲渡するのかを決めておきましょう。また、処分する際の手続きは誰がやるのかを決めておくと、処分もスムーズに開始できます。財産の授受では、内容に併せて税金が発生しますので注意しましょう。

自分の生活について

認知症発症後から死亡するまで、自分がどのような生活を送りたいかを決めておくことは、自分らしく生きるために重要です。

施設に入るのか、できる限り家で生活したいのか、介護する家族を踏まえ相談するようにしましょう。施設への入所には本人の同意が必要になるため、後見人制度や家族信託などを利用して、あらかじめ同意しておくなどの対応をおすすめします。

生活費の負担

認知症になった後の生活費について、誰がどのように負担していくかも決めておきましょう。施設や介護サービスを利用する人は、入所費や利用料を誰が負担するか決めておくことで、負担を押し付け合うような家族トラブルを回避できます。

生活費用の負担方法は年金や預貯金での支払いが一般的ですが、不動産がある場合はそれを売り、得たお金で負担していくことも可能です。使われなくなった不動産を処分でき、家族へ渡る相続財産が減らないといったメリットがあります。

自分の後見人

認知症になった後は、家族による財産の使い込みや本人が損するような契約の締結・解除をされないように、各種手続きを行うには後見人という立場が必要です。

後見人制度には、判断能力があるうちに自分で後見人を選ぶ「任意後見」と、認知症になった後に裁判所を通して後見人を選ぶ「法定後見」の2種類があります。

自分が信頼できる人を後見人として選びたいケースや家族が障害などを抱えているケースでは、判断能力がある内に任意後見制度を利用し、後見人を選任しておくことがおすすめです。

早めに見つけておけば、認知症になった後のことについて意見や希望を細かく伝えられるといったメリットがあります。

認知症になる前に利用できる制度①「任意後見」

認知症対策として、認知症になる前に利用できる制度には「任意後見」と「家族信託」があります。任意後見制度について詳しく紹介します。

任意後見とは

任意後見では選任された人を「任意後見受任者」とよび、「代理権」が与えられます。

代理者としてできることは具体的には以下の通りです。

  • 不動産の賃貸契約、更新契約
  • 不動産の管理・処分
  • 預貯金の引き出し、預け入れ
  • 年金の受け取り
  • 振込手続き
  • 入退院の手続き、治療の説明を聞く
  • 介護サービスの契約、施設入所の手続き
  • 保険料の支払い、受け取り
  • 日常的な生活費の管理
  • 住民票の受け取り
  • 遺産分割協議への代理出席 など

任意後見受任者がどの程度まで対応するかは契約によって異なり、もっと細かい手続きができたり、逆にできなかったりと様々です。細かい取り決めは、後見制度に詳しい専門家にアドバイスをもらいながら進めていくことをおすすめします。

成年後見制度(任意後見・法定後見)の費用はいくら?費用は誰が支払うのか?

任意後見の活用事例

任意後見を利用すれば、以下のような活用ができます。

  • 財産の一部を管理してもらい、認知症発症後の生活費として毎月振り込んでもらう
  • 任意後見受託者を司法書士に依頼し、認知症発症後も遠くに住む家族への負担を減らす
  • 認知症発症後は、任意後見受任者に不動産を売ってもらい得たお金を介護施設の入所費に充ててもらう
  • 認知症後に、自分が浪費や詐欺被害にあわないように、指定した契約以外は解約手続きを進めるようにする など

障害を持つ子どもの将来が不安な場合、法定後見人制度を利用することで、自分が元気なうちに子どもの日常をサポートしてくれる人を裁判所から選任してもらえます。

また任意後見を成功させるには、どのような日常や老後を送りたいかを明確にイメージしておくといいでしょう。できないかもしれないと思っても、実績のある司法書士などに相談することで、よい解決策を提案してもらえるでしょう。

任意後見人を利用するメリット・デメリット

任意後見のメリット

任意後見を利用し、今後の生活や費用負担などについて決めておくことで、認知症発症後に起こる負担を最小限に抑えることができます

また、家族としっかり話し合った上で契約内容を決めれば、「何からどうすればいい?」と迷ったり「誰が費用を負担する?」ともめたりすることもありません。

任意後見受任者には、親族ではなく司法書士などの専門家を選ぶこともできます。専門家を選ぶことで、信頼できる家族の家まで距離がある人や仕事が忙しくて頻繁に手続き対応できない人も負担なく、財産管理することが可能です。

任意後見のデメリット

一方、任意後見のデメリットは、お金の管理から日常的な手続きなど、任意後見受任者に負担がかかってしまうことです。

また財産管理などの権利が1人に集中するため、財産を管理しやすくなる半面、任意後見受任者になれなかった相続人とトラブルになる可能性もゼロではありません。

また、任意後見受任者には「代理権」しかないことです。認知症になると詐欺被害や訪問販売によって高額な商品を購入してしまうなどのトラブルに巻き込まれやすくなります。その際、必要になるのが契約を解約する権利です。

この権利は、任意後見受任者が裁判所に法定後見手続を行い、認められる場合に与えられます。

任意後見を開始するまでの流れと手順

任意後見を利用するには、信頼できる人との間で約束するだけでは契約したことになりません。利用するには、以下のような流れで進めていきます。

  1. 家族で話し合い、任意後見受任者を決める(任意後見受任者を専門家にしたい場合は、ネットなどで専門家を探す)
  2. 成年後見制度の詳しい専門家に任意後見受任者と相談に行く
  3. 任意後見に関する説明を受け、アドバイスをもらいながら契約内容を考える
  4. 契約内容を専門家に契約書としてまとめてもらう
  5. 契約書を公正証書にする【契約手続きの終了】
  6. 【認知症の発症】診断書などの必要書類をまとめ裁判所に「任意後見監督人選任の申立て」を行う
  7. 任意後見人受任者を監視する監督人が選任され、実務を開始させる

後見人の実務を開始させるには、必ず裁判所の許可が必要です。この監督人には、司法書士や弁護士などの専門家や、法律もしくは福祉関連の法人といった第三者が選ばれやすくなっています。

また、不正を防ぐために、任意後見受任者の配偶者や直系血族、兄弟姉妹が選ばれることはありません

選任された監督人には、月額2~3万円程度の報酬支払いが必要です。ただし、本人の財産から支払っていくため、財産から支払えるうちは家族が負担する必要はありません。

任意後見にかかる費用の目安

任意後見では、専門家への相談や公正証書の作成、裁判所の申立てなどに費用が発生します。契約内容などによって費用は異なりますが、目安としては以下の通りです。

  費用
相談料 0~5,000円/30分
任意後見契約の原案作成 10万円~
任意後見人への就任(月額) 3万円~
公正証書の作成手数料 契約によって発生する利益や負担する利益により変動。算定できない場合、1契約につき1万1,000円。
任意後見監督人選任の申立て 2,2000円(申立手数料800円+登記手数料1,400円)~

裁判所によって変動する。

任意後見監督人 2~3万円(裁判所が金額を決定)

費用の支払いは、基本的に契約者本人(委託者)が負担します。任意後見監督人などの費用は継続して支払いが必要になるため、財産が尽きた場合、親族が負担しなければいけません。

負担の押し付け合いにならないように、誰がどのように負担していくのか決めておくことをおすすめします。

認知症になる前に利用できる制度②「家族信託」

認知症になる前に利用できる認知症対策で、もう1つおすすめなのが家族信託です。ここでは、家族信託について詳しく紹介します。

家族信託とは

任意後見は、認知症になった委託者の生活をサポートする制度です。家族信託は契約書で決めた目的を達成するために、信頼できる人に財産を管理・処分してもらう財産の管理制度になります。

家族信託では財産を管理する「受託者」と、経済的な利益を受けられる「受益者」がいます。管理する権利と利益を受ける権利を分けることで、受益者に判断能力や管理能力がなくても一定の金銭を手に入れ続けることができます。

受益者を委託者にすることで、認知症発症後は自分でお金を管理する必要がなくなり、指定した金額だけ受け取ることが可能です。

家族信託とは|仕組みやメリットデメリット・活用事例をわかりやすく解説

家族信託の活用事例

家族信託の利用では、以下のようなことを実現できます。

  • 財産の一部を信託し、認知症発症後の生活費として毎月振り込んでもらう
  • 自分が認知症になった場合、障害を持つ子どもと一緒に施設へ入所させてもらい、信託した財産から入所費などを支払ってもらう。また、自分が死亡した場合、子どもが死亡するまで入所費を支払いを継続してもらう
  • 投資不動産などを信託し、自分の代わりに管理してもらうことで認知症後も家族へ金銭的な負担をかけず生活する
  • 認知症後にペットを知人に預け、受託者に毎月飼育費を支払ってもらう。また自分の生活費の振り込みも一緒に行ってもらう など

家族信託では、自分以外の家族やペットの生活を金銭的に保障するような活用が可能です。そのため認知症対策をしながら相続対策まで行えます。希望する相続がある人は、契約内容に含めておくようにしましょう。

家族信託を利用するメリット・デメリット

家族信託のメリット

受益者や受託者になるために血縁関係や相続権の有無は必要なく、委託者が死亡しても、指定した終了時期までは契約が続行されるところです。

そのため、自分が認知症になったり、死亡したりした後に、生活が心配な子どもやペットの生活を金銭面で保障できるのは大きなメリットと言えます

また、二次、三次と受益者や受託者を設定できるため、認知症対策だけではなく、死亡後の財産の処分についても遺留分を侵害しない範囲で指定できます。

預けた財産の残りの帰属先を指定できるため、家族信託を利用すれば相続権がない人にも一定の財産を渡すことが可能です。

そのため、認知症発症後にペットを飼育してくれた人に謝礼として残ったお金の一部が渡るように設定したり、相続権はないものの、子どものように目をかけて来た人を帰属先に指定したりすることもできます。

家族信託のデメリット

信託する財産の内容や契約期間によっては受託者への負担が大きいことです。また、任意後見人と違い、受託者を信頼する司法書士などの専門家へ依頼することができません。

家族信託が成功するかしないかは受託者がどの程度誠実に対応してくれるかで大きく変わります。

受託者にかかる負担が多くなり実務を放棄してしまうと、お金を受け取れず生活が困窮してしまったり、適切なサービスを受けられなかったりするリスクも考えられます。

なので、万が一不安な人は、司法書士などの専門家に信託監督人もしくは受益者代理人を依頼し、監視してもらうようにしましょう

家族信託の無料相談はこちら

家族や財産を安心して管理したいと
お悩みの方はご相談ください。

TEL:0120-546-393

平日 / 9:00~20:00 土・日 / 9:00~20:00

家族信託を開始するまでの流れと手順

家族信託は裁判を通す必要のない手続きです。進め方は、信託する財産の内容などによって変わりますが、基本的には以下のような手順になります。

  1. 家族で話し合い、受託者や残った信託財産の帰属先を決める
  2. 司法書士などの専門家に相談する
  3. 家族信託の目的を決定し、それに沿って信託財産の内容などを決めていく
  4. 家族信託契約書の作成し、公正証書にする
  5. 家族信託用の専用口座の開設(家族信託には必ず新しい専用口座が必要になります)
  6. 不動産を持っている場合は、不動産の名義変更【契約手続きの終了】
  7. 家族信託契約の内容に沿った財産の処分。信託財産の収支などに関する帳簿を作成する

家族信託にかかる費用の目安

家族信託では、信託する財産の内容や金額によって費用が変わってきます。目安としては以下の通りです。

  費用
相談料 0~5,000円/30分あたり
家族信託契約書作成 信託財産の合計額によって変動

【例】信託財産が…

100万円を超え200万円以下:7,000円

200万円を超え500万円以下:11,000円

公正証書手数料 信託財産の評価額によって変動

1億円以下の場合、1%前後

信託登記 約10万

財産の内容や誰がどのような状況で受け取ったかによって、税金の支払いが必要になります。例えば、不動産の登記が必要になれば、固定資産税の評価額の0.4%(土地は0.3%)が登記免許税として必要です。

ただし、基本的に税金は委託者が支払うことになりますので、受託者が損することはありません

任意後見と家族信託で迷った場合の使い分け

任意後見と家族信託を紹介してきましたが、どちらを使うべきか迷う人もいるでしょう。実は、後見制度と家族信託は併用が可能です。

この2つの制度ではカバーできる範囲が違うため、併用することで手厚い認知症対策ができます。併用は以下のような悩みを抱えている人におすすめです。

  • 子どもや親族が遠方に住んでおり、頼れる人がいない。認知症発症後は投資不動産の運用を代わりに行ってもらい、生活費を自分で工面したい
  • 頼れる親族がいなく、飼っているペットの行く末が不安。自分が認知症になってしまった後は、飼育費を負担するので動物好きの知人に預けたい
  • 子どもが障害を持っており、自分に何かあった時が不安。自分の認知症対策をしつつ子どもの生活を守れるようにしたい など

認知症対策としてどのようなことを希望するかでも、選ぶべき制度が異なります。まずは家族信託と成年後見制度に詳しい司法書士などの専門家に相談しましょう。

認知症対策について相談できる相談先

成年後見制度や家族信託は認知症対策として有効ですが、比較的新しい制度となっており、詳しい専門家が多くありません。

相談するのであれば、解決実績のある「司法書士」もしくは「弁護士」がおすすめです。特に司法書士は登記の専門家ですので、認知症になった後の不動産の処分や管理で困っている方は、司法書士へ相談してみてください。

また、司法書士と弁護士では対応内容に以下のような違いがあります。

  司法書士 弁護士
契約書の作成
不動産登記などの手続き

代理手続きの資格はあるが、実務経験が少ないケースが多い

裁判所への申立て手続き
任意後見人への就任

 

信託監督人・受益者代理人への就任
相続争いに対する代理交渉・仲裁 ×

相談先について「銀行への相談はダメなのか」といった質問もあります。銀行が提案する家族信託は、本記事で説明した家族信託と同じではありません。

銀行を受託者とした家族信託では、信託できるものが金銭のみと限定されていて、お金の受取も認知症発症後ではなく死亡後と決まっています。

そのため、遺族にお金を残したい人が利用するのはおすすめですが、認知症対策としてはおすすめできません。

自分がどのような認知症対策やサポートを希望しているのか明確にした上で、相談先を決めましょう。

まとめ

認知症対策には任意後見と家族信託が有効です。どのような対策をしたいのか、対策によってどのような生活を送りたいのか明確にしておくことで、契約書の作成をスムーズに進めることができます。

また、家族信託や任意後見では、受託者さえ契約内容に同意すれば、その他の家族や相続人の同意は必要ありません。面倒ごとにしたくないなどと、家族に一切の説明なく手続きを進めてしまうと、かえって相続争いや家族関係を壊すきっかけとなります。

認知症対策を行う際は、家族や相続人を含め、自分がどうしたいのかをしっかり説明しておくことが重要です。家族信託や任意後見で不安を持つ家族がいる場合、専門家への相談に同席してもらうことをおすすめします。

専門家から丁寧に説明を受けることで、家族も安心して利用に同意してくれるでしょう。

Information

司法書士法人ワイズパートナー

司法書士 
笠田 佑介(東京司法書士会所属)

司法書士法人WISEPARTNERは、認知症後の対応だけではなく、認知症になる前の対策など、ご相談者様が現在状態で、何の対策を取らなければならないかのご相談も対応可能です。専門家として、認知症への正しい選択肢を提供しています。

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