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身近な親族が亡くなり、相続が発生した際、相続税対策や不動産の扱いを考え、法定相続分での配分ではなく、遺産分割協議で取り決めたいという遺族は多いのではないでしょうか。
そうした対応は一般的なことですが、遺産を相続する法定相続人の中に認知症の発症者がいる場合は話が別です。
残念ながら、相続人の中に認知症の方がいる場合は、基本的に遺産分割協議をするのは難しいといえます。
ただ難しいと言われても納得できませんし、遺産分割協議ができないとなると困ってしまう方は多いはずです。
本記事では、認知症の相続人がいることで起こる問題や遺産分割のために成年後見人をつけるメリットが少ない理由、認知症の相続人がいる際の遺産分割方法について解説します。
目次
この項目では、認知症の相続人がいる場合、遺産相続にどのよう影響があるのか確認していきましょう。
冒頭でもお伝えしましたが、認知症の相続人がいると基本的に遺産分割協議を行うことができません。
というのも、認知症を発症すると判断力や理解力の低下を招き、物事を正確に理解することができなくなります。
物事の正確な判断ができないと何が問題かというと、法律の世界においては、「物を買う・売る」「家を貸す・借りる」など、権利・義務が発生する行為(法律行為)には「意思能力」が欠かせません。
物事の正確な判断ができないというのは、この「意思能力」を欠く状態なのです。
そして、民法では、意思能力のない者による法律行為を無効としています。
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
引用元:民法第三条の二
遺産分割協議も法律行為であるため、認知症の相続人は参加することができないのです。
なお、認知症であれば一律で法律行為が無効と判断されるわけではなく、症状の程度や行為当時の状況、契約内容などを総合的に考慮して判断します。
「◆軽度の認知症であれば遺産分割協議ができる可能性がある」も合わせて参照ください。
認知症の相続人がいると遺産分割協議ができないからといって、それ以外の相続人だけで、遺産の分割内容を決めることはできません。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければ無効だからです。
また認知症の相続人に代わり、勝手に遺産分割協議書に署名・捺印することもできません。
確かに代理の署名・捺印でも形式的には遺産分割協議書は完成します。
バレなければ大丈夫ではと考える人もいるかもしれませんが、遺産分割協議書への勝手な署名・捺印は、最悪の場合、私文書偽造の罪に問われます。
さらに、協議の無効を主張されれば、再度遺産分割協議を含む相続手続きをやり直さなければなりません。
もし、認知症の相続人に代理人を付けたいのであれば、成年後見制度を利用して成年後見人を選任する必要があります。
遺産分割協議ができないとなると、残念ですが相続税対策で有利な処理は諦めなくてはなりません。
法定相続分に応じた金額の税金を納めることになるでしょう。また、遺産分割協議ができなければ、不動産も各相続人が法定相続分の割合で共有することになります。
共有名義だと自分の共有持分しか、自由に処分ができないですし、そもそもそのような状態だと買い手がつきません。
共有名義の場合は、固定資産税も共有者全員で負担しなければならないため、無駄な出費だけが重なっていきます。
認知症により意思能力が欠けている相続人は、相続放棄も自分で行うことができません。
そのため、もし相続放棄を考えている場合には、成年後見制度を活用し、認知症の相続人に成年後見人を選任する必要があります。
ただし、成年後見人に親族が選任されており、その方も相続の対象であった場合には、後見監督人または特別代理人が選任されていないと相続放棄ができません。
というのも、相続人が複数いる場合に相続放棄が行われると、相続放棄をしていない相続人の相続分が増加するからです。
亡くなった方の遺産が負債しかないような場合でも、成年後見人と被後見人の間に利益が相反する関係があれば、後見監督人または特別代理人の選任がとなります。
実は認知症の相続人に対して成年後見人を選任すると、遺産分割協議を行うことができます。
であれば、すぐにでも成年後見の手続きを始めようと思うかもしれませんが、残念ながらそれほど便利な制度ではありません。
むしろ、遺産分割に限って言えば、成年後見人の選任はマイナスの影響のほうが大きいといえます。
遺産分割で成年後見人をつけないほうがよい理由を確認しておきましょう。
成年後見制度を利用するにあたって、親族の成年後見人への就任を希望する方もいるでしょう。
ですが、成年後見人に誰を選任するかを決めるのは家庭裁判所であるため、必ずしも利用者の希望通りになるとは限りません
むしろ、現在の制度の運用状況においては、親族ではなく、司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門職後見人が選任されることが多いといえます。
親族 |
7,779件 |
親族以外 |
27,930件 |
合計 |
35,709件 |
参考:裁判所|成年後見関係事件の概況―平成31年1月~令和元年12月-
成年後見人に親族を選ぶか、専門職を選ぶかは諸般の事情を総合的に考慮して判断されますが、相続手続きの場合は利益相反の問題があるため、専門職後見人が選任させる可能性はより高いといえるでしょう。
専門職後見人が選任された場合には、報酬の支払いも必要です。報酬額は、基本的に裁判所が公表している報酬目安の範囲内で決定します。
管理財産額 |
報酬(月額) |
1,000万円以下 |
2万円 |
1,000万円超5,000万円以下 |
3〜4万円 |
5,000万円超 |
5〜6万円 |
月額でみると少ないように思えますが、年間だと最低でも24万円の出費です。また、場合によっては、付加報酬の支払いがなされることもありますので、予想よりも多くの出費が必要かもしれません。
成年後見人が選任されれば、遺産分割協議ができるようになるものの、相続税対策を考慮した分配は難しいでしょう。
というのも、成年後見人は被後見人の財産を守るために動くことが、求められているからです。相続税の面では有利になるとしても、被後見人が受け取る遺産が少ない遺産分割案に対して、成年後見人は立場上応じられません。
成年後見人が遺産分割案を認めるかどうかの判断をする目安は、法定相続分の割合です。もし協議の上で遺産分割をしたいのであれば、法定相続分の割合以上の財産を被後見人に分配する必要があるといえます。
不動産を相続する場合も同様で、原則は共有名義であり、単独相続したいのであれば、被後見人の持分に応じた金銭の補償が必要です。
一度、成年後見人が選任されると、被後見人の判断能力が回復しない限りは、途中で利用を止めることができません。
遺産分割協議が終われば、成年後見人を外すせるわけではないのです。通常は被後見人が亡くなるまで成年後見は続き、専門職後見人が選任されているのであれば、その間は報酬の支払いが必要となります。
仮に親族が成年後見人に選任された場合でも、後見業務を被後見人が亡くなるまでの間ずっと行わなければならないため、選任された方にかかる負担はかなりのものとなるでしょう。
認知症の相続人がいる場合の現実的な遺産分割方法は、以下の3つ。
それぞれ確認していきましょう。
最も負担が少ないのは、法定相続分に従い遺産を分割する方法です。確かに法定相続分での遺産分割協議だと、相続税対策は行えません。
しかし、遺産分割協議をするには成年後見人を選任しなければなりませんし、成年後見人がいる場合は自由に遺産分割の割合を決めるのは実質不可能です。
さらには、専門職後見人が選任されれば報酬の支払いも必要となるため、相続税対策で減らせた税金以上の支出が必要となるかもしれません。
であれば、法定相続分で分割してしまうのも、悪くはないでしょう。
遺言書がある場合には、その内容に従って遺産分割をするのも選択肢の一つ。法的に有効な遺言書であれば、遺産分割協議をせずとも、法定相続分ではない割合で分配することができます。
ただし、場合によっては、すべての遺産について分割方法が指定されていることもあります。
その場合には、指定のない遺産のみを法定相続分で分割するか、遺産分割協議を行うかどうかを決めなくてはなりません。
認知症を発症しているからといって、必ずしも意思能力がないとは限りません。症状の程度次第では、認知症の相続人を遺産分割協議に参加させることも可能です。
ただし、認知症である以上、本人が遺産分割の内容を正しく理解・了承したかどうかを判断するのは難しいといえます。
もしかしたら、内容を理解できておらず、遺産分割協議は無効となる可能性もゼロではないため、協議を行う前に一度専門家に相談することをおすすめします。
認知症の方が相続人にいる場合、基本的に遺産分割協議を行うことはできず、相続税対策や不動産の単独相続については諦めざるを得ないでしょう。
遺産分割協議のために成年後見人を選任したしても、得られる結果は大きく変わりません。
成年後見人は、被後見人の受け取る遺産が法定相続分を下回るような遺産分割には応じないからです。
そのため、認知症の相続人がいる場合にとれる遺産分割方法は、
に限られてしまいます。認知症が軽度であれば、遺産分割協議を実施できる可能性もゼロではないですが、当事者間で判断するのではなく、専門家に相談したほうがよいでしょう。
もし、まだ相続が開始していないのであれば、家族信託や任意後見、遺言などを活用し、認知症の相続人がいても困らない遺産分割方法を決めておくことをおすすめします。
まずはお気軽に、お電話・メールにてご相談くださいませ。