平日 / 9:00~20:00 土・日 / 9:00~20:00
相続放棄とは、法定相続人になった場合に最初から相続人ではなかったことにする手続きです。
相続放棄では、プラスの財産もマイナスの財産もすべて受け継ぐことを放棄します。相続放棄をした人の孫への代襲相続もされず、相続放棄をした人を除く相続人で相続財産を分割します。
(相続の放棄の効力)第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
引用元:民法第939条
例えば、被相続人が借金を多く抱えている場合、何もアクションを取らなければ単純承認となり、借金を相続する必要が出てきます。マイナスの資産を引き継ぎたくない場合には「相続放棄」が必要です。
厚生労働省のデータによると、認知症を発生している人の人数は、2012年の段階では462万人でしたが、2025年には675万人、2060年には850万人まで増えることが予想されています。(各年齢の認知症有病率が一定の場合) 相続人が認知症を発症した場合には、相続放棄をすることはできるのでしょうか。
目次
相続は、プラスの財産もマイナスの財産も相続する必要があります。例えば、被相続人が借金をしていた場合にはその債務も相続する必要があるのです。そのため、プラスの財産よりマイナスの財産のほうが多く、相続をしたくないという場合には相続放棄をしたほうが良いといえます。
また、特定の相続人が被相続人の介護を何年にも渡り行っていたり、事業を引き継いだりする場合は、他の相続人は特定の相続人にすべての財産を渡したいと考えるかもしれません。このようなケースでも相続放棄は有効的な手段です。
相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。そのため、この期間を過ぎると手続きができません。相続放棄をしたいのであれば、早めに手続きをする必要があります。
認知症を発症している人が相続人となっている場合、相続放棄をすることはできません。判断能力が減退しており、自分自身の判断ではないとみなされるからです。
遺言書が残されていない場合、相続の内容は法定相続人全員が遺産分割協議を行い、相続する財産内容や配分を決めます。しかし、相続人が認知症を発症している場合には遺産分割協議に参加することさえできないのです。
遺産分割協議を行い、遺産分割の内容が決まったら遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、法定相続人が相続内容に納得していることを示すために、法定相続人全員の押印が必要です。
遺産分割協議書がなければ、銀行預金の解約手続きなどができないので、遺産分割協議書は相続手続きで非常に大切な書類となります。相続人が認知症の場合、子供や孫などの親族が本人に代わって押印することも許されていません。
上述の通り、認知症の人は遺産分割協議に参加することはできません。では、「認知症の人以外で遺産分割協をしてもいいのか」という疑問が生まれるかと思いますが、認知症の相続人を除いて遺産分割協議はすることもできないのです。
このように、相続発生時に相続人が認知症を発症していると、相続手続きができません。相続人が認知症を発症しているケースでは、成年後見制度を活用し、認知症になった相続人に代わり法定後見人が判断することになります。
それでは、成年後見制度がどんな制度なのかを紹介します。
成年後見制度には大きく分けて2種類あります。
すでに認知症を発生している場合に、財産の管理や処分などを行う人を付ける制度です。法定後見人の選定には、家庭裁判所への申し立てが必要になります。法定後見人を選任すれば、相続手続きなども後見人に任せることができ、相続手続きを進めることができます。
しかし、法定後見人として親族が選ばれるのは21.8%に留まるというデータが出ているのです。残りの78.2%は弁護士・司法書士・社会福祉士などから選ばれており、親族が望む形の相続ができない可能性もあるでしょう。
成年後見制度の申し立てを行う理由として1番多い意見は「預貯金の管理・解約」が42.0%ですが、相続手続きも8.4%です。
任意後見人は、認知症を発生する恐れがある人が、認知症を発症する前に後見人を選定する制度です。例えば、「この病院に通いたい」「あの介護施設に入りたい」といった願いを叶えるために選定されます。
このように、認知症を発症する前か後でどちらの後見人になるかは異なります。
成年後見制度には、認知症発症者の認知能力の度合いにより後見人・保佐人・補助人が選定されます。
認知能力が欠けているのが通常の場合は後見人が選ばれ、判断能力が著しく不十分の場合は保佐人、判断能力が不十分の場合には補助人が選ばれます。
後見人は財産に関するすべての法律行為が任されますが、保佐人と補助人は家庭裁判所の判断で決める「特定の行為」に限定される点が大きく異なります。
また、平成30年12月末のデータによると、成年後見人は218,142名・保佐人が35,884名、補助人が10,064名でした。成年後見制度を利用するほとんどのケースで後見人が選ばれていることがわかります。
参考:厚生労働省
後見人になるために特別な資格は必要ありません。ただし、以下の欠格事由に当てはまる場合には後見人になることはできません。
(後見人の欠格事由)
第八百四十七条 次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者引用元:民法第847条
後見人は、家庭裁判所の判断で決まります。そのため、親族が後見人になることを望んでも後見人になれないこともあります。親族を後見人にしたい場合には、申し立て提出書類の「後見人候補者」という欄に記載します。
ただし、親族が後見人になる場合には、財産の横領をしないかなどを監督する「後見監督人」を選定されることも多いようです。
法定後見人が相続放棄をする場合、認知症の相続人に代わり法定相続人が相続放棄の申請を行います。手続きの流れは相続人本人が行うのと同じです。
後見人は、相続人の利益になる理由でしか相続放棄はできません。そのため、借金を相続しないための相続放棄はできますが、一部の相続人にだけ財産を残したいという理由で相続放棄をすることは認められていませんので注意が必要です。
相続放棄で必要な書類は「相続放棄の申述書」と「標準的な申立添付書類」が必要です。相続放棄申述書には法定代理人等の項目に○を付けます。法定代理人の住所、電話番号、氏名(フリガナ)の記入も必要です。
標準的な申立添付資料は、被相続人の住民票除票又は戸籍附票、申述人(放棄する方)の戸籍謄本は共通ですが、被相続人から見た立場で用意すべき書類が異なるので、必ず裁判所のホームページで確認するようにしましょう。
参考:相続の放棄の申述 | 裁判所 (courts.go.jp)
また、保佐人がついている場合は、認知症の相続人自身で相続放棄の申請をできますが、その行為に対して保佐人から同意を得る必要があります(民法13条)。補助人がついている場合には、認知症の相続人が単独で相続放棄の申請を多なうことができます。
(同意権・代理権が付与されている場合には、単独での申請ができないケースもあります)
相続放棄の費用としては、800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手分が必要です。
相続放棄の期間は被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内です。そのため、相続人となる人が認知症を患っているのにも関わらず、成年後見制度の申請を行っていない場合には、急いで手続きを行う必要があります。
後見人が選定されるまでのプロセスとして、選任申立後、家庭裁判所が親族(推定相続人)への照会作業を行ったり、本人調査(面接)を行ったりします。他にも、認知症の度合いを調べるために医師による鑑定が行われるなど、後見人選任の審判が下りるまで通常2~5ヶ月程度を見ておく必要があります。
さらに、審判が下ってから審判確定までには2週間かかりますので、間に合わないこともあるでしょう。
このように、後見人選定までには時間がかかることを理解しておく必要があります。相続人が認知症を患っていることが明確で、近い将来相続が発生する予定があるのであれば早めに後見人を選定しておきましょう。
最後に、成年後見人による相続放棄は相続人にとって利益になる場合(借金を引き継ぐことを放棄する場合)にしか活用できません。財産を残す側の被相続人が認知症の相続人に財産を相続させたくない場合の対処法について説明します。
被相続人に判断能力がある場合には、遺言書を書いて認知症の人以外に多めに財産を残すようにすることができます。相続では遺言書の内容が優先されるので、遺言書に従って相続します。
遺言書を作成する場合には、各相続人の遺留分を考慮する必要があります。遺留分を考慮しないと、遺留分を侵害された相続人が遺留分侵害額請求をする可能性があるからです。
遺留分侵害額請求をされた人は、金銭で返還する必要があるので不動産や自社株など換金しにくい財産を相続した場合には自分の財産から支払う必要が出てきます。
また、相続内容に不公平さを感じれば家族仲に亀裂が入るのは避けられません。そのため、法定相続割合に従い平等に相続しない場合には、遺留分は考慮した内容にする必要がありますし、付言事項で「なぜこのような相続内容にしたのか」と記載したほうが良いといえます。
このように、遺言書を記載する際は遺留分を考慮する必要があるので、認知症を発症している相続人に100%財産を相続させないという書き方はなるべく避けた方がよいです。しかし、最低限の相続に抑えることができます。
認知症の相続人に財産を残したくない場合には、認知症の相続人以外に生前贈与しておくという方法も考えられます。生前贈与は、贈与人(財産を渡す人)の意思で贈与ができますし、節税効果のある制度を利用することもできます。
また、遺産分割協議での相続の場合は法定相続人にしか相続ができませんが、生前贈与ならば法定相続人以外に贈与することも可能です(遺言書も法定相続人の遺留分を考慮していれば法定相続人以外に相続が可能)。
例えば、事業をしている経営者で後継者が親族ではないケースが増えてきました。このようなケースで、生前贈与をしたり、遺言書を用意したりしていなければ、法定相続人に財産を相続することになります。自社株などの会社経営にかかわる財産が後継者以外に渡れば経営がしにくくなります。特に、認知症を発症している相続人には事業にかかわる財産を相続させたくないと考えるのが一般的でしょう。このようなケースでも生前贈与を利用すれば、後継者にきちんと相続することができます。
ただし、被相続人の死亡日からさかのぼって1年以内の生前贈与は、遺留分侵害額請求の対象になりますので、相続人の遺留分を侵害しないように気を付ける必要があります。「絶対に認知症を発症している相続人に相続させたくない」という強い意思があるのであれば、早めに生前贈与をしてしまったほうが良いでしょう。
(ただし、贈与には贈与税が発生します。生前贈与をされる場合は、税理士等専門家に相談した方がいいでしょう)
認知症を発症していると相続人自身が相続放棄をすることはできません。法定後見人に、相続人に代わって手続きをしてもらう必要があります。ただし、相続放棄は相続人にとって利益がある場合にのみ利用できます。基本的には被相続人が借金を抱えており、借金を相続する必要があるときに相続放棄を行います。
相続放棄の期限は、被相続人が亡くなったことを知ってから3カ月以内ですが、法定後見人の選定には時間がかかります。近いうちに相続が発生する予定があり、相続人が認知症ならば早めに家庭裁判所に申し立てを行うべきといえるでしょう。
まずはお気軽に、お電話・メールにてご相談くださいませ。