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親や家族が認知症と診断された後、お金の管理方法について不安を持つ人も多いと思います。
ですが、急に通帳や預金カードを取り上げるのは厳禁です。本人のペースに寄り添い、できる限り本人に管理させる必要があります。
また、日本には認知症になってしまった人のお金を管理する制度があり、状況に応じて利用することで、介護する人の精神的・金銭的な負担を減らすことができるでしょう。
この記事では、お金を管理する前に知っておきたい注意点と、認知症発症後・発症前に利用できる4つの制度について紹介します。
認知症になった家族のお金を管理する際、症状の程度によってさまざまなトラブルが起こるでしょう。ここでは、管理する前に知っておくべき注意点について紹介します。
お金の管理方法について、必ず家族での話し合いが必要です。勝手に管理をしてしまうと、家族内の金銭トラブルを招くきっかけになります。
家族内でお金の管理について決まったら、認知症の家族にも提案し意見を聞くようにしましょう。
認知症と言っても初期の段階では、少しできないことが多くなったり忘れっぽくなったりしただけで、「できる限り周りに迷惑をかけたくない」「自分でできる」と思っている方も珍しくありません。
周りの人だけで決めるのではなく、本人の意思を最大限尊重することが重要です。
家族が本人の代理としてお金を管理するのは、本人が預貯金を下ろしに行けないほど症状が進行してしまった時です。
まだ自分で管理できる内から細かく口出ししたり、本人の意思を無視して財布を取り上げたりするのはおすすめできません。浪費や紛失などを心配してしまう気持ちはわかりますが、「お金の管理」は本人にとって自尊心に直結している可能性があります。
また、初期症状では急に色々なことができなくなったことで、不安や焦燥を強く感じてしまう人も珍しくありません。
自分でお金を管理できないことで、「自分のお金を盗まれた」と強い被害者意識を持ってしまうケースもあります。そうなってしまうと信頼性が崩れ、どんどん被害妄想的な言いがかりを付けられたり、会話が余計に難しくなってしまったりするでしょう。
不安があるとは思いますが、管理についてできる限り本人で行わせ、家族は本人のペースに合わせ浪費や紛失しないようなサポートに留めることが重要です。
家族ができるサポートは多岐にわたりますが、浪費や詐欺に騙されないようにしたい場合、お金の支払いの際には必ず家族へ連絡するよう約束しておきましょう。
口頭だと忘れてしまうリスクが高いため、財布に貼り付けておくなど財布を開くたび目に入るような工夫が必要です。
認知症になると判断能力が衰え、感情の制御が難しくなります。そのため、大金を一気におろし高額な商品を買ってしまったり、不要なものを購入し浪費してしまうリスクがあるでしょう。
このような浪費を回避するには、口座を複数開設して生活費を1つの口座にまとめないような対応がおすすめです。
自動送金サービスなどを利用すれば、一々銀行に行き口座にお金を振り分ける必要はありません。
光熱水道費など絶対に必要になるお金は、別の口座にわけた上に通帳の保管も別にすることで、浪費による未納・滞納といったトラブルを回避できます。
トラブルを早期発見するためにも、支出チェックは定期的に行うようにしましょう。金銭トラブルは、浪費や詐欺だけではなく、身内の使い込みなどさまざまです。
身内の使い込みは貯金残高や取引内容を見て初めて発覚することが多く、中には数年で数百万を使い込んでいたケースもあります。
発見が遅れれば遅れるほど損害は大きくなり、家族関係も修復できないものとなるでしょう。
このようなトラブルを起こさないため、定期的に支出を確認し金銭トラブルの種がないかを確認していきましょう。
認知症の方は、感情の制御や計画的な行動が難しくなります。介護している側は、何度言っても浪費してしまったりお金をなくしてしまったりする家族に対し、怒ってしまうこともあるでしょう。
ですが、お金を使ったことに対し怒鳴ったりきつく責めてはいけません。「自分は悪くないのに怒られている」と思い、余計にけんかになってしまう可能性があるでしょう。
また、すでに症状が進行しており会話が難しい状況でも、怒りの感情は伝わり、怯えさせてしまいます。信頼関係が壊れてしまうと、介護が余計に難しくなり、ストレスも増加するでしょう。
できる限り怒らないよう注意し、症状に合わせてサポートしていくことが重要です。
認知症になった家族のお金を管理する制度は主に4つです。症状によって利用できないこともありますので、早めの対応が必要です。
成年後見制度の法定後見は家族が認知症と診断された後に利用でき、認知症患者の生活をサポートする目的の制度です。
認知症患者の4親等以内の親族が裁判所に成年後見申立てを行い、認知症の症状に応じて補助・保佐・後見のいずれか選任してもらいます。
何に選任されるかで対応範囲が以下のように変わってきます。
補助 | 保佐 | 後見 | |
対象者 | 判断能力が残っており、助言を受けることで契約などの重要な行為ができる | 日常生活(買い物、銀行の引き落としなど)はできるものの、契約などの重要な行為にサポートが必要 | 1人では財産管理や生活の組み立てが困難 |
申し立てについての本人の同意 | 必要 | 不要 | 不要 |
取消権 | × | × | 自動的に付与 |
代理権 | △ | △ | 〇 |
代理としてできること | 申し立てにより裁判所が定める行為 | 申し立てにより裁判所が定める行為 | 原則として全ての法律行為 |
症状が進行すれば、ほぼすべてのことを代理できる後見人として、認知症の患者をサポートしていくことになります。
ただし、法定後見は申立てを親族が行いますが、選任される人は親族とは限りません。
後見人等の立場を悪用した不正を防止するため、親族ではなく司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門家などから選任されることがほとんどです。
自分で管理しようとしていた家族の財産を急に第三者へ任せることになるため、不安をもったり納得できない人もいるでしょう。
これを覆すのは難しいので、後見人等が申立人以外に決まったら、信頼関係を築けるように今後のことについてよく話し合うようにしましょう。
成年後見制度では、認知症になる前の人が利用できる「任意後見」という制度もあります。
これは、判断能力のある内に後見人になる人を自分で選任することが可能です。
サポートの仕方や財産管理などについて健康なうちに相談できるため、家族への負担を最小限にできます。
任意後見制度の受任者となった人は任意後見受任者と呼ばれ、財産管理や日常の手続きのサポートを行います。行えることに制限があり、必要に応じて裁判所の許可が必要です。
家族信託は、成年後見のような日常生活のサポートはできない代わりに、柔軟な契約により財産を守ることを目的とした制度です。
財産の管理権と利益を受ける権利を分けることで、他人にお金の管理を任せながら、利益を受け取れます。
例えば、自分を受益者(利益を受け取れる人)、子どもを受託者(管理する人)として、認知症が発生した場合に信託財産1,000万円から毎月20万円ずつ振り込むといった契約内容にしておけば、認知症発症後は受託者が契約に基づき、振込を行ってくれます。
裁判所を通す必要がないため、成年後見より契約まで時間がかからないのが特徴です。
家族信託は、受益者や受託者を選定するさいに血縁関係が必要なく、遺留分を侵害しない程度であれば、信託財産の残りを自分の指定する人に渡すことができます。
そのため、相続権を持たないものの1番介護してくれた子どもの配偶者に財産の一部を渡すということも可能です。
日常生活自立支援事業は、社会福祉協議会が行う福祉サービスです。
この援助では、定期的な訪問や生活費の管理などを行ってもらえるため、頼れる親族が身近にいない人でも安心できます。
利用料金は訪問1回あたり約1,200円で各都道府県などによって異なるので事前確認が必要です。生活保護受給世帯に関しては無料で利用できます。
ただし、この制度では対象者に制限があり、どちらも満たす人しか利用できません。
・判断能力が不十分な方(認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等であって、日常生活を営むのに必要なサービスを利用するための情報の入手、理解、判断、意思表示を本人のみでは適切に行うことが困難な方)
・本事業の契約の内容について判断し得る能力を有していると認められる方
引用:日常生活自立支援事業
認知症の症状が進行し過ぎてしまうと利用がむずかしくなりますので注意しましょう。制度の内容を詳しく知りたい人は、都道府県の福祉課にご相談ください。
4つの制度を紹介しましたが、誰でも利用できるのが成年後見制度の2つと家族信託です。ただ、どちらでもお金の管理ができるため、どちらを選ぶか迷ってしまう人も多いでしょう。
ここでは、お金の管理方法を選ぶ際のポイントについて紹介します。
成年後見制度の任意後見と家族信託は、契約を行う際に判断能力が必要です。そのため、すでに認知症の症状を診断されているのであれば、法定後見制度を利用しましょう。
注意したいのは物忘れが多くなってきたものの、認知症の診断をされていないタイミングでの契約です。認知症の診断は難しいため、任意後見や家族信託の契約を巡り裁判になった場合、生活状況などから判断能力がなかったと判断される可能性があります。
診断されていないものの認知症の症状が出ている場合、司法書士など成年後見制度や家族信託に詳しい専門家に一度相談してみましょう。
状況を把握した上で、最適なお金の管理方法を紹介してくれます。
認知症になった後も生活は続くため、理想の老後生活から制度を選ぶこともできます。
例えば家を引き払って介護施設に入所し、入所費の支払いと時々のお見舞いでよく、日常的な手続きを代理してもらう必要がほとんどない場合、家族信託を利用するのがおすすめです。
逆に、できる限り家にいたいのであれば、定期的な買い物や毎月の光熱水道費の振込、生活費の引き出しが必要になります。そのため、日常生活をフォローできる成年後見制度と必要に応じて家族信託を利用しましょう。
家族に障害を持っている人がいれば、自分が認知症になった後の生活について不安になりますよね。
家族信託では受益者を二次、三次と増やすことができます。そのため、自分を一次受益者として、死亡した後に障害を持つ家族を二次受益者にすることで金銭面から子どもを保障することが可能です。
また、成年後見を利用して障害を持つ家族の後見人を付けることで、自分が死亡した後でも日常生活をフォローし、財産管理してもらえます。
自分に何かあった後でも金銭面を保証しつつ、日常生活をサポートしてもらえるようにしたいのであれば、併用するのもおすすめです。
認知症になった家族のお金の管理は、慎重に行わないと認知症になってしまった家族との信頼関係、その他の家族との信頼関係のどちらも壊す可能性があります。
管理方法は主に紹介した4つですが、どのような方法が最適なのかは認知症の症状の程度や、財産の内容、制度を利用してしたいことを踏まえ決めていく必要があります。
すでに認知症になってしまった場合、法定後見をおすすめしますが、まだ健康であれば選べる選択肢が広がります。
まずは、成年後見や家族信託の実績豊富な司法書士にご相談ください。
まずはお気軽に、お電話・メールにてご相談くださいませ。